Wednesday, November 19, 2008

愛とはかくも難しきことかな03


一難去ってまた一難。
今度の嵐は一也さんよりも質が悪かった。
「やっぱり仮病か」
「は?」
どこをどう見たら仮病に見えるよ、この様が。
そういう意味を混めて布団の中から睨み上げると、戸口に仁王立ちの俺様の片割れが、馬鹿にしたようにふんと鼻を鳴らした。
「出かける用意をしろ」
「あの、風邪で寝込んでいる筈なのに部屋を出るのはちょっと」
「いいから来いよ」
「そ、相二さん」
「あぁ?!」
いつぞやの車の中の一也さんとそっくりな返答に、思わず黙り込んだ。
無理矢理腕を引かれて立ち上がれば、寝間着として来ていたネグリジェの裾は大きく捲れ上がっていて慌てて手で裁いて隠した。ふっと鼻で笑われたのが気に入らないのだが。
「2分で着替えろ。でなきゃ俺が着替えさせてやる」
そう言い置いて彼は襖の向こうに消えた。
なんなんだ、ジャイアン2号め。

「あのぅ。何故このようなところへ?」
連れていかれた先は、誰でも知っている有名ブランド店。
売られているものに普段着は無いけれど、それ以外はそろっている場所。靴からドレス、髪飾りの類いまで。
「………こんなもんかな」
「あの、聞いてくれませんか、私の質問」
「おい」
「はい」
「着替えろ」
「はい?」
差し出されたのは10枚ほどのドレス。
なんなんだ。買うなと言ったのはどこの誰なんだ。なんでこんなところで着せ替えごっこに付き合わなきゃならんのだ。というかこっちは病人なんだよこのジャイアン2号。ノビタが風邪引いてたらさすがのジャイアンでも虐めないんだぞ!
なんて口から飛び出ることもなく、渋々無言で一枚着ては試着室の外まで出て次の一枚にまた着替えるという行為を1時間以上やってあげた。
しかし全て試着し終わった後に、もう数着選ぼうとしている相二さんに、ついに懇願した。
「あの、本当にもう、無理なんですけど」
こっちがフラフラなのが分かりませんか。試着室の鏡で見た自分の顔は怖いほどに青ざめていたのに。店員の人が気をきかして「風邪薬と水要りますか?」ってきいてくれるほどなのに。でも俺様なお客さんの相二に、「お連れ様が死にそうですよ」とは言ってくれないんだな。まぁ、いいけど。
「ふん……まぁこれだけありゃいいだろ。行くぞ」
そう言って腕を掴まれ引きずられるように店の外へ出た。
そんなに急いで歩かれると余計に気分が。一歩足が進むたびに頭がガンガンする。
「相二さん、わたし、もう本当に…」
「あぁ?」
駄目なんです、と続けようとしたが目眩がひどくて膝を折った。
貧血なんて人生で一度もなったことがないくらい血の気が多いはずだったのに。あの家に引き取られてから人生初なことがたくさんあるなぁ。
それにしても、目が回って、もう、駄目、です。
目の前が真っ暗になった。



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