Wednesday, November 26, 2008

愛とはかくも難しきことかな07

  ふと目を開けると、優成さんの顔があった。
「気がついたか?」
 どうやら御堂家にある自分の部屋にいるようだった。
 心配げな顔で額に冷たいタオルを置いてくれる。
「……ヘンなの。メグまだ夢見てるみたい」
 さっきまで確かに保健室で寝ていたのに。これは夢の続きなんだな、きっと。
 優成さんが心配してくれるなんて不思議な夢だなぁ。
 そんなことを思いながら彼を見つめていると、彼は眉根を寄せて顔を寄せてきた。
「大丈夫か?何か欲しいものはあるか?」
「ううん。何もないよ」
 そう答えてからおかしくなって笑ってしまった。
「どうした」
「ヘンなの!優しい優成さんなんてヘンすぎる。優しく成るという名前が御堂の家で一番似合わなさそうなのに」
 夢だと安心してケタケタ笑っていると、喉にきた。ごほごほ咳き込みながらもおかしくて笑っていたら、優成さんは微妙な顔で黙り込んでしまう。
 お腹を曲げて笑ったせいか、身体が布団からころりと転がり出た。
 そこでふと顔先にある畳の匂いを嗅ぎ取って、何かがおかしいと思い出す。
 指先で感じる畳の感触が妙に生々しい。足にからまる掛け布団のシーツも、何もかもの感触がはっきりと戻ってくる。
 そこでやっとこれが夢ではないと気づいた。
「げっ!」
 慌てて身体を起こすと、さっきと同じ場所で優成さんが憮然とした表情で座っていた。
「笑ったと思えば青くなったり忙しい奴だな」
「ゆ、優成さん。何で」
「双子がお前が保健室で寝込んでいると連絡してきたから、迎えに行ったんだ」
 そう言うと腰を浮かして、こちらの腕を掴んできた。
 咄嗟に殴られると思って目を瞑ると、思いの他優しい動きであたしを抱き上げると布団の上に戻す。
「まだ熱があるんだろう、寝ていろ」
 落ちていたタオルを拾って、傍にあった水の入った洗面器で洗ってしぼった後、またあたしの額に乗せてくれる。
 ヘンなの。
 優成さんが優しい。
「悪かったな」
 ぽつり、と優成さんが言った。
「ドレスのこと、勘違いなんだな」
 何のことか最初分からなかったあたしは、二度三度彼の言葉を復唱したあと、あぁ、と手を叩いた。
「あれは、相二さんが勝手にっ」
「あぁ。分かっている。済まなかったな、一方的に責めてしまって」
 誤解なのだと言おうとすると、優成さんは本当に申し訳なさそうに眉を下げてそう言ってくれた。
 その様子にあたしは、なんとなく居心地が悪くなって、布団を口元まで持ち上げた。
「優成さん……」
「なんだ?」
「もしかして、あたしの熱が移ったりしてるんじゃ……」
 あまりに普段と様子が違うのでふと疑問を口にすると、彼は至って普通に「平熱だ」と答えた。嫌みでもあったのに、彼はそれを気にした様子はない。いつもの毒舌がかえってくるかと思っていたのに、拍子抜けして布団の中でため息をついた。
「優成さん……」
「なんだ、もう寝ていろ」
「名前が似合わないとか言ってごめんなさい………」
 言いながら途中で布団を顔の上まで被ったので、くぐもって聞こえたかもしくは最後まで届かなかっただろうなと思ったけれど。
 彼の大きな手が、頭を撫でてくれるのを感じて、ほっとして目を閉じた。

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