Saturday, May 16, 2009

しのやみ よわのつき04

 ホテルを出たところでタクシーを拾い、急いで帰ってきたマナはリビングのソファで寝転がっているレイを見つけてほっと息をついた。
「おかえり」
「大丈夫?気分は?」
 心配は杞憂だったのかレイは平然としておやつに置いておいたプリンを食べている。額を合わせても特に熱もなさそうだ。
「ごめんね。テレビ見てたら直っちゃったよ」
 ソファの横に座り込んだマナの髪は急いでいたせいかぼさぼさになっており、レイは申し訳なさそうにそれを指で梳いて直してやった。
「ううん、いいの。ビックリしたけど、レイちゃんが元気なら」
「仕事は良かったの?」
「うん、もう終わってたから」
 さらさらの髪の毛を触りながら聞くレイに、マナはさらりと嘘をついた。
 その時レイはふと髪の毛を鼻先に寄せた。
「煙草の匂いがする」
「え」
 くんくん、と彼女の首筋に顔を寄せ、匂いを嗅ぐとすぐに身体を押しやられた。
「し、仕事の後に、同僚とちょっと休憩してたから、その時についたのかも」
「ふぅん。その人、男?」
「え、あ、女、の人、よ。ど、どうして?」
 今まで残業のことについて聞かれることは無かったのに、突然追求されてどぎまぎと答えに詰まっていると、レイは胡乱げな目をした。
「ふうん?」
「あ、ほら、レイちゃんドラマ見ていたんでしょう?」
 まずい、と咄嗟にマナはテレビを指差した。
 今話題のドラマでレイも好きなのか、マナが火曜の10時過ぎに帰ってくると大抵それを見ていた。だから彼も注意がそれると思ったのだけど。
「…まぁ、いいけど」
「あ、あのどんなドラマなのかしら、これ」
 仕方ないから誤摩化されてやる、とでも言いたげなレイにマナは必死に場を繕おうとドラマの話題をふった。
「中学時代に女の子に惚れていた男が、大きくなって再会して、また恋に落ちる話。だけど、どっちかっていうと男が執念深く女の子の方を追いかけてる話」
「一途ってことね。素敵じゃない」
「主演が吉嶺聡だから許せるだけで、ブサイクがやったらストーカーだよ」
 解釈の仕方は人それぞれだけどね、とレイがマナを呆れた顔で見ると、彼女はテレビに映る主人公の男と女のやり取りをぼんやりと見つめていた。

No comments:

Post a Comment