Saturday, January 17, 2009

恋愛勘違い事情 01

 わたしには好きな人がいます。
 その人はとっても格好良くて、頭も良くて、性格も良くて、物語の中の王子様のような人です。
 わたしはそんな彼をいつも見つめているのですが、彼はわたしのことを知りません。


 電車が小気味よく揺れる。
 そんなに混んでいるわけでもなく、でも席は埋まっていて、立っていなければならない放課後の電車。部活で帰る人はきっとラッシュアワーで帰るのだから、わたしはまだ運が良い方だ。
 私が降りる駅は、住宅街の真ん中のようなところで、駅のホームの出口が一カ所しかない。だから、帰りの電車は必然的に、降り口に近い一番後ろの車両に乗る。
 同じ駅で降りる彼もいつも同じ車両に居た。
 そして、今日も。

 某アイドル事務所に居そうな、甘いマスクとくしゃくしゃの髪。ああいう髪型が最近の流行なのかな。芸能人で似た様な髪型をしている人がいたような気がする。少し長めの前髪は軽く横に流している。
 県内でも結構有名な進学校の制服の胸元には、校章と並んで生徒会と書いてある金色のバッジが飾られている。それを見つけたのは、たまたま混んでいた日、横に並んだときに目の前にあったからなのだけど。
 彼のあだ名はコンちゃんらしい。たまに友達を連れているところに遭遇するので、耳を峙てていたのだ。名字が近藤とかなのかな。下の名前は未だに謎だ。

 車両の向かい合う扉のもう一つに立つ彼は、イヤフォンで音楽を聞きながら窓の外を眺めている。立っているだけで、絵になる人だ。
 それに比べて自分は。
 考えると悲しくなるほど、普通の女子高生。
 一応お嬢様高校と呼ばれる私学の学校に通っているけれど、校則が厳しくて膝下丈のスカート。ワンピースにカーディガンというスタイルだから、確かにお淑やかに見えるかもしれないけれど、ミニスカートに茶髪でアクセサリーをつけている子達に比べたらかなり野暮ったい。髪型も、肩よりも長い子はポニーテールかおさげにくくらなければいけないし、昭和かと聞きたくなるような古くささだ。
 はぁ、とため息をついた。
 これで自分も頭が良かったり、良家の子女だったり、目を見張るような美人だったら良かったのに。生憎と、普通の家庭に生まれた、並の頭と容姿の持ち主である。
 趣味は猫と遊ぶことで、あまり社交的な性格でもないし。
 これじゃぁ永遠に片想い決定だ。あぁ、泣きたい。


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 最近、気になる子がいる。
 その子は結構可愛くて、清楚で可憐という言葉が似合いそうな、とても女の子らしい子だ。
 俺がその子のことをいつも見ていることを友達は知っているけど、彼女はきっと気づいてもいないだろう。

 電車が小気味良く揺れる。
 いつも取っているこの時間の電車は、各駅停車のせいかあまり混まない。それでも空席はなかなかないけれど。
 俺が降りる駅は、繁華街とはほど遠い住宅街にあって、駅のホームの出口が一カ所しかない。だから、帰りの電車はいつも、降り口に近い一番後ろの車両に乗る。
 同じ駅で降りる彼女もいつも同じ車両に居た。
 そして、今日も。

 ちょっと昭和のアイドルを思い起こさせるような、化粧っけのない幼い顔。少しぷっくりした赤い唇が、可愛くもありちょっと色っぽくもある。胸元には二つにくくられた髪が流されていて、黒く艶やいていた。
 全国でも有名なお嬢様学校の制服は彼女によく似合っていた。水色のワンピースは膝丈で、一度ホームで電車を待っているときに風でふわりとめくれたは、思わず胸が高鳴ってしまった。勿論中身は見えなかったのだが、普段見えない白い太腿が露になったときは、同じ学校の女子には感じられない喜びがある。
 彼女の名前は、岡本まゆみというらしい。彼女はいつも革の鞄とは別に、手作りらしい手提げを持っているのだが、その端に名前が刺繍してあったのをこっそり盗み見た。

 彼女は向かいの扉の傍で、扉横のバーを軽く掴んでで身体を支えながら、姿勢よく立っていた。両足は肩幅で揃えられていて、扉にもたれかかることもなく、背筋はぴんと伸びている。
 その姿はまるで周りの世界から切り離されているような印象を与える。
 きっと良いところの家柄なのだろう。自分とはまったく釣り合いが取れなさそうな。母子家庭で、昔は生活保護を受けていたくらい貧乏だったせいか、いつまでも貧乏性の抜けない自分とは違う世界の住人なのだろう。
 そんなことを考えていると、彼女がはぁ、とため息をついた。
 何か悩み事でもあるのだろうか。最近彼女はよく沈みがちな表情をしている。彼女みたいなお嬢様だと、いろいろとしがらみが多いのかもしれない。仲良くなれたら相談に乗ったりしてあげられるけど、それはまた夢のまた夢なのかもしれない。

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