Thursday, January 29, 2009

愛とはかくも難しきことかな23

「俺は、お前が御堂の家に居る事は、良いことだとは思えない」
 予想していた筈の答えなのに、その返事にずきりと胸が痛んだ。仲良くなった今なら認めてもらえると本当は心の底で思っていたのかもしれない。
 馬鹿だな。
 最初に言われていた筈なのに。
「大体、お前は養子縁組を受け入れられないんだろう」
「だって、私の記憶では確かに父が確かに居たんです。DNA鑑定なんて言われても、突然現れた人を父だなんて受け入れられません」
「まぁ、そうだろうな」
そこまで言ってから、ふと彼らも同じ気持ちなのかな、と思い至る。突然現れた自分みたいな人間を妹だと言っても、彼らだって認められないのだ。それこそ、同じ姓になっていればまだしも、法律上は未だ他人。
「…やっぱり、養子縁組も受けないのに、御堂の家に居るなんて迷惑ですよね」
 いつまでも、養子に入ることもせず御堂の家に居座るつもりだった自分が悪いのだ。今こうして出ていく決意が出来ただけでも、良かったのかもしれない。そうでなければ、いつまでも宙ぶらりんのままだった。
 明日、御堂の父と出来そうだったら話をしてみよう。そして自分の立場をはっきりさせて、金銭面で頼ることが出来るのだったらお願いして。それが駄目なのだったら、祖母の残してくれたお金で公立の高校を卒業して独り立ちしよう。
 祖母を亡くしたとき、御堂の父が現れなかったら辿っていた筈の道なのだから。
「萌、俺が言いたかったのは、そういうことではなく」
「いいんです、優成さん。私、決めましたから」
「萌……」
 そうと決めたら眠ろう。眠って、元気に起きて、御堂の父に話に行こう。


 そう思ったのに。
「眠れなかった……」
 朝日が差し込んで1時間ほどした頃、部屋の外で物音が聞こえてベッドを出た。優成さんはぐっすり眠っているのか、寝息と共に掛け布団が上下する。
 大人でも寝ると子供と変わらないんだな、と思うと少しおかしい。こんな風に寝顔を見れるのも最後かな、と思うとなんとなく悲しくなる。でもじっと見つめているのも失礼かと思い、ベッドから離れた。
 寝室の扉を開いてリビングに行くと、キッチンに矢田さんが居た。
「おはよう、萌ちゃん」
「おはようございます」
 彼は昨日遅くまで起きていたのに、目覚めが良いのかその姿は早朝でも爽やかに見えた。
「もっと寝てても良いんだよ」
「あ、いえ。なんだか眠れなくて」
「そうなんだ。コーヒー飲む?カフェオレの方がいいかな?」
「牛乳が入ってるやつ……?」
 コーヒーの横文字の名称なんていまいち良く分からなかったのだけど、適当に聞くとそうだよと教えてくれた。
 コーヒーメーカーではなく、ステンレスのポットで湧かしたお湯を滑らかにカップの上の置いたドリッパーに注ぐ様を、カウンター脇に座ってぼんやりと眺める。
 御堂家はお手伝いさんが台所を仕切っているせいか、ダイニングとキッチンは分けられていて、こうやって誰かがキッチンを使って何かをしているのを見るのは久しぶりな気がした。
「どうぞ」
「いただきます」
 置いてあった角砂糖を2つほど入れて混ぜ、カップを口に運ぶ。
 コーヒーの味なんてよく分からないけど、牛乳とコーヒーのバランスが美味しくてちびちびと飲んだ。矢田さんは朝ご飯の支度なのか、トースターにパンを入れたりトマトを切ったりしている。
「萌ちゃんはさ、優成のことが好きなの?」
 矢田さんを眺めていると突然そんなことを聞かれた。

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