Tuesday, February 3, 2009

愛とはかくも難しきことかな25

 矢田さんを見送って、しばらくテレビを見た後、10時を過ぎた頃に優成さんがやっと起きてきた。
「矢田は?」
「大学に行きましたよ」
「そうか。どうする、家に帰るか」
「はい」
 携帯で誰かに迎えを頼むと、優成さんは顔を洗うために洗面所に行った。
 昨日の服が一式入った紙袋を片手にいると、すぐにインターフォンが鳴る。迎えだと思って、壁についた画面を覗くと、思わぬ姿を見て仰け反ってしまった。反射的に隠れたくなったが、向こうにこちらの姿は見えてないことを思い出し、すぐに優成さんのところへ行った。
「ゆゆゆ優成さん、克巳さんが迎えに来てるんですけど」
「兄さんが?」
 タオルで顔を拭いていた彼も、まさか克巳さんが来るとは思っていなかったのか、少し驚いたようだ。
「どどどどうしましょう」
焦って尋ねる間にも、インターフォンが立て続けに鳴らされる。
その音に顔をしかめながら、優成さんは「とりあえず降りるか」と言った。


 矢田さんに昨晩借りた服のまま降りてきた二人を見て、マンションの入り口に立っていた克巳さんは眉根を寄せた。
 それから、つかつかと優成さんの近くまで行くと、腕を振り上げた。
 昨日の双子の様に叩いてしまうのかとはっと息をのんだ萌に、寸での所で優成さんが拳を受け止めた。
「兄さん、事情も聞かずに殴ることないだろう」
「無断外泊、しかも萌ちゃんを巻き込んで」
「一応連絡した筈だ」
「許可した覚えはない。……帰るよ、萌ちゃん」
 優成さんに止められた手を振り払い、それから克巳さんはこちらを振り向いて手を差し出した。その手を握る気はまったくなかったので、克巳さんの怒りが怖くて優成さんの背に隠れた。それだけ克巳さんは怒っていた。
 そして思った通り、差し出した手を無視した萌に彼は眉間に皺を寄せる。しかし強引に引きずって家に連れ帰られるかと思ったけれど、彼は落ち着いたままの態度で萌に話しかけた。
「萌ちゃん、父が心配してるよ」
 その言葉に心が跳ねた。兄弟に会いたくなくて家に帰らずにいたけど、そのことを御堂の父はどう感じただろう。きっと呆れられてしまった。駄目な子だと思われてしまったかもしれない。
 ぎゅっと優成さんの服の裾を握った。
 怖い。
 御堂の父にもいらないと思われたら。
 おかしいな。ついさっきまで御堂の家を出ると決心したばかりなのに。
 でも嫌われたくない。御堂の父のことは好きだし、唯一祖母が亡くなった後面倒を見てくれた人だったから恩も感じている。がっかりさせたくない。
「萌、父には俺から事情を話してやるから心配するな」
「優成さん……」
 萌の考えていたことを理解したのか、優成さんは安心させるように彼女の頭を撫でた。そして萌も信頼を示すように彼に撫でられて表情を緩める。
 その様を見て克巳さんは小さく舌打ちした。

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