パタン、と部屋の襖を閉めた。
ぎゅっと両手を握りしめる。
未だに変な気分が抜けない。深呼吸を何度かすると、大分ふわふわした感じが抜けてきた。
ちょっとショックだっただけだ。
優成さんは昨日と同じことを言っただけだ。
知ってた筈じゃないか。御堂の兄弟は私のことを嫌いなんだって、最初の日から分かっていたじゃないか。
昨日誓ったじゃないか。出ていくんだ。こんな家出ていくんだ。
高校だって友達もできないし、家の中でだってずっと安心できないし、こんな所に未練なんかない。優成さんが言いたいのもそう言うことだ。庶民には庶民の暮らしが似合っているんだって、そういう意味じゃないのかな。
克巳さんだって、双子だって心の底では馬鹿にしてるんだ。
そうだ、克巳さんだって今日もまたふざけていただけだ。もしかしたら双子と何か企んでいたのかもしれない。あの人が優しくするときは何か魂胆があるときだけだ。
御堂の父は私のことなんか心配していない。そうだ、心配していたのなら、今日だって家に居て帰ってきたときに一言声をかけてくれただろう。
どうして私はこんなに馬鹿なんだろう。
何を想像していたんだろう。
居ないんだ。
この世界には、私のことを気にかけてくれる人なんてもう居ないんだ。
物心ついた頃には両親はいなかった。唯一面倒を見てくれた祖母はもう居ない。
「げ、泣いてる」
「うわー、泣いてるよ」
潜めた声だけど、十分こちらに聞こえる声音で喋るのが聞こえて顔を上げると、いつのまにか襖が少し開いていて双子が顔を除かせていた。
一番見られたくない二人に泣いてる姿を見られて、慌てて袖口で目元を拭った。
「何か御用ですか」
「べっつにー、優成兄に出ていけって言われてどんな顔してるかなって思っただけ」
「用がないなら出ていって下さい」
つん、と顔を背けると二人がむっと顔をしかめたのが横目で見えた。
「なんだよ、慰めてやろうと思ったのに」
慰めるじゃなくて、貶めるの間違いじゃなかろうか。
「トメさんがご飯ができたと言っていましたよ。早く行ったほうが良いんじゃないんですか」
「お前も行くんだろ」
「私は遅れるので先に食べておいてくださいとトメさんに伝えて下さい」
今は優成さんに会いたくない。
彼の顔を見れば泣いてしまうかもしれない。そんな醜態を晒したくない。
考えていたらまた涙が滲んできた。
未だに襖のところから動かない二人を見つけ、苛々とした気持ちが溜まってくる。
「早く出ていって下さい!」
怒鳴っても動かない二人に近くにあったクッションをなげつける。力任せに投げたそれは、二人には当たらず襖に当たって跳ね返った。
「な、なんだよ、せっかくちょっと可哀想かなって思ってやったのに」
「あなたたちに哀れに思われる筋合いはありません!大体、この家で私が一番嫌いなのはあなたたちですから!」
苛々が止まらない。溜まっていた鬱憤が決壊したダムのように、酷い言葉になって流れ出す。そうだ、私はずっとこの二人が嫌いだった。
「いつも意地悪ばかりして、たまに暴力まで振るってきて、人の嫌がることばかりして。私が何も言わないからって、何をしても良いと思わないで下さい!大体、見分けのつかない双子なんて気持ちが悪いんですよ。同じ格好して人を惑わせるのがそんなに楽しいですか!」
「なんだよ、俺たちの見分けがつかないんじゃなくて、お前が見分けられないんだろ」
「見分けたくなんかないですよ。あなたたち二人は私に嫌なことしかしてこないですから、見分けたって無駄なんです!」
「このっ」
顔を怒りの色に染めた双子が腕を振り上げた。それをクッションで受け止める。
でも二対一ではやはり勝てずに、振り回していたクッションは取り上げられて、床に腕を縫い付けられた。
涙に濡れた顔を隠す術はなく、二人が顔を覗き込んできた。それを見たくなくてぎゅっと目を閉じる。噛み締めた唇から自分の涙の味が少しだけした。
嫌いだ。
あぁ、消えてほしい。いや、消えてしまいたい。どうして私はこんなところで口論してるんだろう。どうして私はこの家に居るんだろう。どうして今までこの家に居たんだろう。
嫌いだ。嫌いだ。全部嫌いだ。この家に居るひとみんな、いや、この世界が全部憎い。
どうして。酷い。おばあちゃん。どうして死んじゃったの。どうして私は御堂の家に居るの。どうしてこんな酷い世界に私を残していくの。
Thursday, April 23, 2009
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