耳のすぐ傍で悲鳴を受けたせいか、足下の一人がしかめた顔を持ち上げた。
「……うっせ」
「そこは絶対やなの!やだっやだやだやだ、お願いやめて!やめてください」
半狂乱、という言葉通りに暴れると、さすがに二人の手が止まった。
「そんなに嫌なのかよ」
「嫌に決まってるじゃないですか!」
「最初は痛いけど、すぐ気持ち良くなるって」
「オマエ、こんな美形二人に初めてを奪ってもらえるなんて、どんだけ名誉だと思ってるんだ」
「そうだそうだ」
なんであたかもこちらが間違っているような感じに言えるの?!
どう考えても無理矢理のシチュエーションで喜ぶ乙女がどこに居る。しかも半分兄弟なのに。
「は、初めては好きな人とするものなんです!」
「俺たちのことが嫌いだって言うのかよ」
「どどどどどの口がそんなことを!?」
「なんだと」
自分の行いを振り返ってみろ!
妾腹だなんやといたびられたこっちの恨みは深いんだ。髪の毛をひっぱってくるのは日常茶飯事だし、足を蹴られたことも数回あるし、頭をはたかれたことだってあるし。心身の暴力の傷は長いこと残るもんなんだから。
そう説教してやろうと思ったら、突然ベッドに押し倒された。
「面倒くせぇ、もうなんだっていいからヤってやる」
話し合いも通じないなんてどれだけ原始人なんだこの双子は。というよりももう駄目だ。蹴り上げようとした足は足元の一人で空中で固定され、腕も頭上でもう一人に押さえつけられて。
「やだぁぁあああ!」
本当にもう駄目だ。
さようなら乙女の貞操!
と、思ったところに、ガチャリとドアが開く音がした。
「おーい、萌ちゃーん」
声とともに克巳さんの姿がベッドルームの扉の向こうに見える。
途端に双子はばっと身を起こして萌から離れた。が、しかし。時はすでに遅し。
二人が萌を襲っていたのは克巳さんの目に焼き付けられただろうし、乱れた衣服からも何が起こっていたかは一目瞭然だっただろう。
「……一也、相二」
いつもと変わらない笑みの後ろに、烈火の炎が見える。怒っている。普段何を考えているのか分からない克巳さんが、明らかな怒りを見せていた。
双子は逃げようとしてベッドから飛び降りたがが、逃げ出す前に克巳さんに殴り倒されていた。初めて人が殴られるのを間近で見た萌は、双子が吹っ飛ぶ様を見て人間はあんな風に軽く宙を飛ぶのかと圧倒された。
「痛ぇ〜〜〜……」
ベッドの下で呻く声が聞こえて、萌が見下ろすと、二人は床で頬と腹を押さえて踞っている。
「萌ちゃん」
何故か炎を後ろに携えたまま、自分の方に向かってくる克巳に、萌は怯えてベッドの上で後ずさった。
しかし手首を掴まれてベッド際の克巳の元まで引っ張られると、まず落ちていたドレスの肩ひもを直して貰った。それから乱れていた胸元とスカートをいやらしさのない仕草で直されると、彼が萌の顎をあげて首筋を覗き込む。
そしてそこで、つと眉根を寄せた。
「萌ちゃん」
「はい…」
怒っている。
何故かは分からないけど克巳は萌にたいしても怒っていた。
びくびくしながら答えると、彼は指先で彼女の首筋の一点を押さえ聞いてきた。
「君が誘ったの?」
その言葉に一瞬頭の中が空っぽになった。
Monday, December 22, 2008
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