「え、はぁ、まぁ、御堂の家では一番好きですけど」
「そうじゃなくて、異性として」
「え、えぇ?私と、優成さん、一応血が繋がってるんですよ」
「まぁ、そうだよね」
どうして御堂の兄弟といると、こうも色事に物事が進むんだろう。というよりも、私がおかしいのだろうか。普通、少しでも血が繋がっているのなら、恋愛対象からすぐに外されるものなんじゃないのだろうか。
首を捻っていると、目の前にお皿が差し出された。
「はい、朝ご飯」
「え」
トマトとチーズの入った小さなオムレツとサラダとトーストの乗ったお皿と、矢田さんを見比べると彼はカウンターの向こうで「どうぞ」と言った。
「矢田さんは、ご飯は?」
「僕は朝はコーヒーだけなんだよね」
「そう、なんですか。……すみません、気を使わせてしまって」
「お客さんがそう言うこと気にしないの。それよりも口に合うといいけど」
用意されたフォークでオムレツの端を切り取って口に運ぶと、ふわふわでとても美味しかった。
「お、美味しいです。とても」
「そう?それならいいんだけど」
彼はキッチンカウンターの向かいのスツールに腰掛けて新聞を平げた。その様が大人っぽくてぼぅと見惚れてしまう。
「僕、あと30分くらいで出かけるんだけど、優成が起きるまで適当に寛いでてくれて構わないからね」
「あ、大学ですか?」
「うん。昼には戻るけど、それまでに帰るんだったら優成がスペアキーの場所知ってるから、鍵かけて帰ってね」
しばらく黙々と新聞を読んでいた彼は、めぼしいところは読み終えたのか、またそれを奇麗に畳み直した。
丁度トーストの最後の一口を咀嚼したところで、口の中のものを飲み込むと、「ごちそうさまでした」と伝えた。
「お粗末様でした」
すぐに皿をさらっていきそうな矢田さんに、慌てて手を振る。
「あ、片付けやります。学校に行く支度とか、あるんじゃ」
「はは、だからお客さんはそんなこと気にしなくても良いの」
彼はそう言って手際よく、水洗いした食器を食洗機に片付けていった。その様子を見ると、確かに自分が片付けるよりは効率が良さそうだな、と納得しつつ、申し訳なくて身を小さくする。
「本当に気にしなくて良いんだよ。優成なんか、滅多に片付けなんて手伝わないし。昨日は萌ちゃんが手伝ってくれたから、グラスとか運んでくれたけど」
「え、それは」
成人した大人としてはどうなの、と思わなくもない。
「御堂家の人は、そういう点ではちょっと付き合い辛いかもね。萌ちゃんみたいに、一般家庭で育った子には」
「……そうですね、いつも価値観の違いとかに悩まされていますね」
「はは。そうだと思った」
矢田さんがカウンターを拭こうとしていたので、台拭きを受け取って自分で拭いた。その間に、矢田さんは残っていたコーヒーカップをまた食洗機に入れる。
こんな風にご飯の後片付けを手伝うなんて、どれくらいぶりなんだろう。
その時、ふっと頭に浮かんだ想像に思わず笑ってしまった。
「どうしたの?」
「想像していた兄弟像と全然違うなって思うとつい。私、兄弟が居たら、きっと一緒にご飯作ったり、するんだろうなって思ってたから」
「でも実際はきっと包丁すら握ったことなさそうな4人だもんね」
その矢田さんの言葉に、二人でお腹を捩って笑った。まったくその通りだから。
矢田さんみたいな人が兄になっていれば、きっと毎日楽しかっただろうな。奇麗で、格好良くて、優しくて、昔の少女マンガに出てきそうな『お兄ちゃん』の理想像だ。きっといっぱい甘えてしまっていただろう。
Friday, January 30, 2009
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