パーティの朝、トメさんにドレスを選んで出しておくようにと言われて、クローゼットを開けて唖然とする。
優成さんは10枚と言っていたが、開けてみれば10枚以上のドレスがわさっと収まっているではないか。
自分の分だけではなくて、昔誰かが着ていたお古だと思い込みたかったけれど、どうも見てみる限り全てまだブランドのタグがついたままのものばかりだ。
誰だ。人の留守中に勝手にクローゼットを触った人間は誰だ。半分以上開いていた筈のウォークインクローゼットが埋まってしまっている。
とりあえず勝手に仕舞われたらしいドレスをベッドの上に出すことにした。
値段のタグは全部取り外されていたけれど、ブランドのタグやカバーがついたままのものなら返品に応じてくれるだろうから、後でトメさんに頼もう。もし駄目でも優成さんに頼んだらネットで売ってくれるかもしれない。戻ってきたお金は御堂の父に渡そう。どうせ兄弟の誰が買ったにしろ、長男以外は皆父親からお金貰っている筈だし。
それによく考えたらこの中から気に入ったものだけ出して返品すれば良いのだから、選び放題でそう悪くないだろう。店の中で選ぶより、他人にあれこれ言われなくて済むし。
「うーん。やっぱり誰でも似合う黒のオーソドックスなワンピースタイプが無難かな。胸の下にリボンがついているのが可愛いかな。生地もしっかりしているし。手洗いできてアイロンも大丈夫なんて完璧だなぁ」
自分が知っているブランドなんてLとVが一面に散らされているやつくらいなんだけど。タグを見てもアルファベットがならんだブランド名なんて読めないよ。
やっとのことで名前も知らないブランドから無難な1枚を選び出した頃、こんこんと部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
トメさんだとてっきり思っていたのに、開いたドアから入ってきたのは克巳さんだった。
「やぁ、お邪魔します」
お邪魔しないでください。お願いですから。
そんな心の中の悲鳴を奇麗に隠した顔で、彼を迎え入れるとベッドの上のドレスの山に気づいたようだった。
「あれ?」
「トメさんに言われて、ドレスを選んでる最中なんです」
言外に今忙しいので帰ってくれと伝えるつもりだったのだけど、ふと克巳さんの手にあるものを見て悲鳴をあげたくなった。
「なんだ、せっかく持ってきたのに」
「ま、まさか」
「君に似合うと思うんだけど」
克巳さんの手元には、ベッドの上にあるのと似た様なカバーのついたドレスが一着あった。
有無を言わさず着替えさせられ「うん、やっぱり似合う。今晩はそれがいいよ」とニコニコニコニコッと脅されたら、言い返すことなんて不可能だ。
途中で優成さんや双子も乱入してきたけれど、克巳さんが一睨みすると彼らは文句を言うのをやめてさっさと退散していった。長男は強し。というか、やっぱりこの人は天使の皮を被った悪魔というか、狸か狐だ。穏やかそうな顔して腹に一物抱えているに違いない。
ピアスの穴は空いていないというと、急ごしらえながらとてつもなく高そうなイヤリングとネックレスも揃えてもらうことになった。
レンタルですよね?と聞いたけれどあの克巳さんの笑みからすると、本物も有り得そうな気が。
そこまで考えたところで悪寒がしたので思考を中断した。
Monday, December 15, 2008
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