「そういえば僕のもので良ければ着替える?ドレス姿じゃ肌寒いし居心地悪いでしょ」
言われてまだ胸元の開いたドレスを着ていたことに気がつく。
しかし会ったばかりの優成さんの友人に着替えを借りるなんて失礼ではないか、と優成さんをあおぎ見ると彼は矢田さんの提案に頷いた。
「そうしてやってくれ。俺にもズボンかなんか貸してくれないか」
「いいよ、サイズが合うか分かんないけど。ついでにシャワーも浴びる?確か友達の忘れ物の化粧落としとかもあったし、歯ブラシの代えが余ってたよ」
矢田さんに着替えとその他一式を渡されて、洗面所に入った。
やっと似合っていないドレスを脱げてほっとできる。
ついでに目の下に黒く溜まっていたマスカラの汚れも濡らしたティッシュで拭った。今までこんな顔をホテルの人やハイヤーの運転手や矢田さんに見られていたかと思うと、穴を掘って入りたくなる。
化粧落としのボトルの裏面を読みながら顔を洗って、シャワーを浴びてすっきりしてリビングに戻ると、優成さんと矢田さんは二人でお酒を飲んでいた。
「おかえり。そうしてると年相応だね」
少しサイズの大きい矢田さんのトレーナーとショートパンツの中で泳いでいる姿を見て、彼はくすくすと笑いながらそう言った。
「あのドレス、似合ってませんでしたから」
「そんなことはないよ。ちゃんと似合っていたよ。ねぇ優成」
「まぁ、化粧と髪型がちゃんとしていたときは、大人びて見えたな」
二人にそう言われて少しだけ気分が浮上する。勿論、お世辞なんだとは分かってはいるけど。
「それよりも、矢田に客室を用意してもらったから、お前はもう休め」
「優成さんは?」
「俺は矢田としばらく飲むから気にするな。明日、起きたときにどうするかもう一度考えておくんだ」
「はい……」
そう言われて、今日こうやって矢田さんの家に泊まるのは一時しのぎでしかないんだと再認識する。
「まぁ、僕は別に萌ちゃんが何日泊まろうと構わないから。あまり気負わないようにね。おやすみ」
「おやすみなさい」
二人に寝る挨拶をして、教えてもらった客室に入った。
突然やってきたのに奇麗に整えられているそのベッドに寝転がると、目を閉じた。
さきほどまでうたた寝していたからそう簡単には眠れないかもしれないと危惧した通り、すぐには眠れなかった。
閉じた瞼の裏に、嘲笑う双子と克巳さんの姿が浮かんでは消えていく。優成さんも3人の仲間じゃないとどうして言い切れるだろう。今だって矢田さんと何か悪巧みをしているのかもしれない。耳を済ませば、声を落として喋る二人の話し声が聞こえてくる。ときたま上がる笑い声に、もしかしたら自分を笑っているのかも、と疑心暗鬼になってしまう。
そんな不安なことばかりが頭をぐるぐると回って、ぎゅっと目を瞑った。
どうしたら良いんだろう。
おばあちゃん。
———おばあちゃん。
そもそも私は一体誰の子供なの。
本当に御堂と母の子供なの。
それともやっぱり両親の子供なの。
それとも、御堂と誰かの間にできた子供で、おばあちゃんのところで貰われた子供なの。
私、何も聞いていない。
引き取られた時から、聞きたくなくて意識的に尋ねないことにしていた。おばあちゃんの手紙にも何も書いていなかったから、御堂の父が言うことを信じていたけど。でも御堂の父が私の母に当たる人の話を聞いた覚えもない。
私は、誰なの。
もう何度目になるのかは分からないけれど、涙はまだ枯れていなかったらしい。後から後から溢れてくるのをシーツに目元を押し付けて拭った。
Monday, January 5, 2009
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