Tuesday, April 28, 2009

愛とはかくも難しきことかな 閑話1

 能面のような表情をした、日本人形のような彼女が御堂の家に来たのは夏の初めだった。

「この子は渡辺萌ちゃん。お前達の妹になるから面倒見てやるんだぞ」
「よろしくお願い致します」

 呆気に取られる四兄弟の前で、父は嬉しそうな顔で彼女を紹介した後、トメさんに彼女に家を案内するように言いつけた。
 二人が居間から去ったあと、まず双子が一番の疑問をぶつけた。
「父さん、妹ってどういうこと?」
「言葉通りだ。彼女を今まで育ててくれていた方が亡くなってしまったので、僕が引き取ることになった。今日からお前達の妹になる。それから、彼女は僕のことを本当に父親だと思ってるから、そのことについて口外しないように」
「つまり僕たちの本当の妹じゃないってこと?」
「そうだ。だが、彼女には僕が本当の父親だと言って引き取ったから、そのことを彼女には言うんじゃないぞ」
 話しはそれだけだ、と父は彼女とトメさんの後を追うためにその場を去っていった。
 残された僕たちは、顔を見合わせて眉間に皺を寄せた。
「どう思う?」
「なんで突然知り合いの娘を引き取るんだ?しかも実の父親のフリなんかして」
「思惑の匂いがぷんぷんする」
「もしかして、あいつ隠れ婚約者だったりして」
「御堂家に花嫁修業とかいって送り込まれたとか」
「妹のふりして俺たちの中の一人とあわよくばくっ付けと」
「こないだ一也が新田との婚約断ったから」
「相二も断ったじゃねーか」
 双子がそっくりな顔で睨み合って馬鹿なことを言い合ってるのを横目に、優成を見ると目が合った。その途端彼は「興味ない」と短く言って居間を出ていった。
 基本的に兄弟中で一番女性に人気があり、いつも周りを恐そうなお姉様方に固められているせいか優成は異性に興味があまりない。それどころかうんざりしている節がある。だから彼が新しく増えた家族に興味を示さなくてもおかしくはない。
 しかし父の真の思惑はどこにあるのだろうか。
 会社の将来を考えている時は冷酷なまでに計算する人だが、プライベートだからといって情けをかけて知り合いの娘をわざわざ引き取るだろうか。
 そもそも渡辺なんて知り合い聞いたこともない。
 何か気になるな、と顎に手をあてた。

「いただきます」
 初めての夕食を一緒に取ることになり、さりげなく彼女を観察してみた。
 手を合わせたあと、奇麗に箸をすくい上げ、器に軽く触れて食べ始めた。畳敷きの和食卓で奇麗に正座をして背を伸ばしている様は慣れたもので、食事のマナーも完璧だった。
 優成はともかく、末の双子は母が早くに亡くなったせいもあってトメさんが甘やかしたものだから、マナーのレベルでいうと新しい妹の方が上らしい。今も双子で嫌いなものを皿から皿へ移し合っている。
「萌ちゃん、転校の件だけど一也と相二が同じ学年にいるから、困ったことがあったら二人に言うんだよ」
「はい。お二人とも、よろしくお願いします」
 能面のような顔は相変わらずだ。
 父に言われたせいか双子は嫌々オーラを隠しつつ彼女に頷いて返す。
 大人しいタイプなのか猫を被っているのか、彼女は口数少なく父に話しかけられ失礼にならない程度に答えを返す以外はあまり喋らなかった。
 食事が終わった後彼女はトメさんが片付けるのを手伝おうとしたようだが、断られて僕たちが揃っていた居間にやってきた。

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