10時過ぎ。
けだるげな空気の中、マナは身体を起こして、地面に散乱した自分の荷物の中から携帯を拾い上げた。最中に携帯の着信音を聞いたような、そんな気がしたのを思い出したのだ。
『頭痛い。風邪ひいたみたい。早く帰ってきて。マナがいないと寂しい』
15分ほど前に届いたメッセージ。
送信者は勿論この世で一番大切なあの子。
それを読んで顔色を変えた彼女はすぐさま機敏に服を身につけだした。
「どこ行くんだ」
ヘッドボードに身体を持たせながら煙草を吸っていた男が、マナの慌ただしい着替えを眺めながら尋ねる。
「帰る。レイちゃんが頭痛いって……っ!ちょっと」
脇目を振らず、部屋を出ていこうとする彼女の腕を、掴んで引き寄せた。
文句を言おうとする彼女の唇に口づけて黙らせる。
最初は抵抗していた彼女も諦めたのかしばらくすると大人しく彼に凭れながらその時間が過ぎるのを待った。
愛しい人に触れるように彼の大きな手がマナの頭の後ろを撫でる。
それに心地よさを感じたとき、突然その手がマナの長い髪をつかんだ。
「いっ」
突然のことにちいさく悲鳴をあげた彼女は、至近距離に迫った相手の男を睨みつけた。しかし相手の男は口に小さい笑みを浮かべるだけ。
マナだって理解はしている。二人の間の上下関係を。
「忘れてないだろうな?」
「忘れてなんか、ないわ。私はもう誰も好きにならないし、レイちゃんをちゃんとした大人に育てあげることだけが、目標なの」
いつも通りの答えを言うと、男は満足したのかふっと煙草の煙をマナに吹きかけると興味を無くしたように、ベッドヘッドに身体を預けてくつろぎだした。
まともに煙草の煙を吸い込んだマナは咳き込みながらも、立ち上がる。恨めしそうに睨みつけても相手はどこ吹く風だ。
「煙草、身体によくないわよ」
「ふん」
彼女が出ていって、扉が静かに閉まったところで、男は突然乱暴に傍に転がっていた枕を拳で叩いた。
「くそっ」
男の端正な顔がゆがんで悔しそうな表情に変わる。
「何年たっても邪魔しやがって…」
さきほどまでの余裕はもうなかった。
苛々と吸っていた煙草を灰皿で消すとシャワーを浴びるためにベッドから降りる。
彼女が居ないのならばこんなところでゆっくりする理由がなかった。
Monday, May 11, 2009
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