Thursday, April 30, 2009

愛とはかくも難しきことかな34

24時間営業のファミレスに入ると、宮内は何でも頼んでもいいぞと言った。一番お腹に溜まりそうなハンバーグセットとメロンソーダを頼むと、ぷっと笑われた。
「お子様メニューじゃねぇか」
「でも大人サイズだもん」
べー、と舌を出して応酬すると、彼は何故かツボに入ったのか肩を振るわせて笑っている。しばらくそうして一通り笑い終えた後、彼は咳払いをして、真面目な表情に戻った。
「で、何があったんだ?」
「…言わなきゃ駄目?」
「あのな、16歳の高校生が、ホテル街でウロウロしているのを捕まえた可哀想な保健の先生の気持ちになってくれ」
「見逃せば良いじゃん」
「馬鹿。できるか。しかもそれがお前だったから尚更だ。なぁ、何があったんだ。俺はお前の事情は一応知ってるつもりだ。言うだけ言ってみろよ、何か助けになれるかもしれないだろ?」
「なるかな…」
「まぁならなかったら、そんときゃそんときだ」
その時頼んだ飲み物が来たので一度会話を切った。メロンソーダの上に乗っているアイスをつついて沈め、緑色にそまった部分をスプーンで掬う。小さい頃から、おばあちゃんとたまに外食したときに頼むこの飲み物が大好きだった。
御堂の家のご飯は美味しい。トメさんの料理の腕は素晴らしいし、たまに御堂の父が連れていってくれるレストランも美味しい。
でも、私は、この安っぽい味が好きなのだ。コンビニのお菓子とか、駄菓子とかそういうのも。気取っていなくて、庶民らしい味。
そういえば、気心の知れる友達と放課後に買い食いをしたり、小物屋さんを覗いたり、最後にそんなことをしたのはいつだっただろう。御堂の家に移ってからは移動は全部家の車で、大抵の場合家と学校の往復だった。寄り道なんて滅多にしないし、そんなことをしようものなら双子に後々ねちねちといじられるのが分かっていたからだ。
センチメンタルな気分になると涙腺が緩んだ。ぽろぽろ泣きながらメロンソーダをつつくこちらを見て宮内は焦った顔をする。
「お、おい、泣くなよ、頼むから。ほら、これで拭け」
咄嗟に手元にあったナプキンを差し出し、涙を拭くように言う姿を見て思わず笑った。
「泣くか笑うか、どちらかだけにしてくれよ。頼むから」
「だって、宮内格好悪い」
これが克巳さんとかだったら絶対に奇麗にアイロンされたハンカチを差し出してくれるところだけど。レストランの紙ナプキンがガサガサして肌にあたると少し痛かった。本当に可笑しい。
「すんませんね、ハンカチを持ち歩いてない男で。いいんだよ、最近のトイレはハンドドライヤーがついてるんだから」
格好がつかなく笑われたのが恥ずかしかったのか顔を赤くして言い訳をする宮内を見て、少しほっとする。これが普通の人の反応だ。御堂の家と学院がおかしいだけで、宮内は私と同類なんだ。
「あのね」
「なんだ」
「御堂の父はね、私のこと、家の道具にするつもりで引き取ったみたい」
「はぁ?!」
なんとなく重かった気分が少し浮上して、御堂の家に帰れとも言わない彼を少し信用して打ち明けると、目を見開いて驚いたようだった。
「え?はぁ、家の道具って?」
「なんか、婚約させるって言ってた」
「え、政略結婚?って今頃あんのか?」
「あるみたい。家の繋がりがって、言ってたもん」
良かった。学院で養護教諭をやっていても一般人の常識はあるみたいだった。

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