運ばれてきた料理をもくもくと食べている前で宮内は私が説明した話しを頭の中で整理しているのか顎に手を当てて考え込んでいる。
「えーと…、まず血が繋がっていると説明されて御堂の家に世話になるようになったと。それから妾腹だと兄弟に虐められるようになった。行く宛も特にないから多少は我慢していたけれど、兄弟の一人に真剣に家を出ろと諭された。その後政略結婚のために引き取られたと知って逃げ出して来たんだな」
こくんと頷くと、宮内はうーんと唸った。
「今どき政略結婚とか…」
「でもこの耳で聞いたもん」
それがなければ御堂の家から怖くなって逃げ出すこともしなかった。今から考えると優成さんはそういう意味で出ていけと言ってくれたのかな。だったら彼のことを悪く思ってしまって悪かったな。
「しかしなぁ、最初に引き取られたときに養子の話しをして断ったんだろ?」
「確かに養子に入るのは断ったけど、今考えると御堂の父…御堂さんはかなり拘っていた気がする。きっと最初から政略結婚させるつもりで娘にしようとしてたんだよ」
「でも4人も息子がいるんだし、わざわざ他人を引き取らなくても」
「相手先に息子しかいないとか」
納得できないのか彼は辻褄が合わないといって、うーんと唸ってまた考え込んでしまった。
辻褄が合おうが合わなかろうがもうどうでも良いのだ。御堂の家なんてもう帰りたくない。
ハンバーグセットを満喫して、残ったメロンソーダも飲み干した。満腹だ。
これからどうしよう。
空いていたお腹もいっぱいになったし、後は今晩の寝床と今後のお金なんだけど。考え込んでいる宮内を横目に、逃げる算段を考える。トイレに行くと言って普通に逃げ出せそうだけど、そうするとすぐに御堂家に連絡が言って、この近隣に人が派遣されてすぐに見つかってしまうかも。
そんなことを思っていると、宮内がおもむろに携帯電話を取り出した。
番号をダイヤルしようとしている彼の手元から慌ててそれを奪い取ると、彼を睨んだ。
「誰に連絡しようとしてるの」
「お、おい、誤解するなよ。電話じゃない、メールだ。友達と飲みに行く約束をしてたのがいけなくなったって、言おうと思っただけだ。大体、俺は御堂の家の番号なんか知らない」
確かに偶然会っただけの保険教諭の携帯に御堂家の番号が登録されていたらおかしいけれど。
「信用できない」
学校の同僚に番号を聞くことだってできるし、もしかしたら宮内には最初から御堂から連絡が入ってたのかもしれない。
疑いの目で見つめると、彼は疲れたようにため息をついた。
「お前な、これからどうするつもりなんだ」
「…」
「逃げたって一時のことなんだぞ。さっきみたいな相手に捕まらないと限らないだろ」
「だって、帰りたくないもん。あんなところ一生帰りたくないもん」
あんなところ、と思い出すとまた涙が目元に溜まる。それを見てがりがりと頭をかいた宮内は、お手上げとでも言いたそうに天井を見上げた。
「…仕方ない、今晩は俺の知り合いのところに泊めてやる」
「ほんとっ?!」
「ただし」
宿をゲットしたと思ってぱっと顔をあげたところに、ずいっと人差し指が持っていた携帯を指差した。
「家に一報入れて、外泊することを許してもらえ」
「えぇっ、やだよ」
「駄目だ。でなきゃ、泊められん。今すぐお前を無理矢理にでも交番に連れて行って、学校に連絡いれて、家族に迎えに来てもらう」
いつもは軽口ばかり叩く宮内がいやに真剣にそう脅すものだから、ついこくりと同意した。
途端によし、と元の雰囲気に戻った彼に、ほっとすると、緊張していたのをほぐすようにこちらの髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱してきた。
「心配すんな。なんとかしてやるから」
「…うん。………でも電話しなきゃ駄目?」
「駄目。絶対。でないと俺が誘拐犯にされる」
即答で返されてがっくりと肩を落とした。
御堂の家の人と喋ること自体嫌なのに、どうやってあんなに話しずらい人達を説得しろと。克巳さんなんかが出たら絶対にこっちが言い包められるに決まってる。
Saturday, May 2, 2009
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment