Saturday, December 20, 2008

愛とはかくも難しきことかな11

「挨拶周りは終わったんですか?」
「大体ね」
 優成さんとは違って一人身軽にやってきたらしい彼は、身長差のせいか少しかがむようにして話してくる。その体勢の密着感もさるものながら、素肌の肩に触れる彼の手が思ったよりも暖かくて、少し肌寒かったので心地よいのだけど、なんとなく意識してしまう。うっすらとコロンの匂いもするし、ううむ、これが大人の色気というものなのかな。
「それよりも君はどうして一人なの?」
「え、別に一人じゃぁ…」
 聞かれたので、そう答えてちらりと傍に立っていたさっきの門脇と名乗った青年をみやる。優成さんを待っていたときは一人だったけど、今は彼がいるからそういうわけでもない。
「そうじゃなくて、どうして僕の弟達が君の傍にいないのかなと聞いているんだけど」
「あ、優成さんならあちらで女性の方と喋っていらっしゃいますよ。双子のお二人は、最初にお友達の方々と連れ立ってどこかに行かれましたけれど」
「まったく…」
 そうため息をついて、萌の肩を抱いていた腕に力を込めた。
「あ、あの、御堂さんと彼女はお知り合いなんですか?」
 そのとき門脇青年が控えめに口を挟んだ。
「お知り合いに見えないかい?」
「い、いえ。仲が良さそうなので、どういう関係なのかな、と」
 克巳さんはえらく不躾な態度で応答した。大人げがないというか、ちょっと態度が悪い。まだまだ高校生くらいの門脇青年は彼に睨まれて多少腰が引けてしまっている。それでいなくとも克巳さんは御堂の跡取りだしな。
「彼女は僕にとってとても大切な子だよ。申し訳ないけど、連れていくから」
「は、はい」
 申し訳なさの皆無な物言いに、青年は気圧されたまま、引き下がった。
 きっとさっき言っていた同い年の子達のグループの元に戻る彼の後ろ姿を、なんとなく羨ましい思いで眺めていた萌は、ふと自分への視線を感じて顔をあげる。そこには自分を怖い顔で見下ろす克巳さんがいた。
「萌ちゃん、駄目じゃないか」
「な、にがですか?」
 いつもはのほほんとした仮面を被っているので、初めてみた険しい顔に驚いて一瞬声が裏返ってしまった。ちょっと恥ずかしいな。
「ああいう軟派なのについていっちゃぁ駄目だよ」
「でも、会場内ですし、親御さん達の目もそれなりにありますよ。大体、ここにいる私くらいの方達って、皆さん上役の方々の親族でしょう?親の顔を汚すようなことは、しないと思いますけど」
「まぁ、大体の子達はそうだけどね。我が家には二人、悪い例がいるから」
「あぁ……」
 明らかに双子の事を指している。
 納得していいのかどうか。しかし納得せずにはいられない萌だった。
「まぁいいや。何かつまみに行こうよ、挨拶周りでアルコール以外口にしていないんだ」
「あ、はい」
 誘われて、つい頷くと、さっと手を差し出された。
「お手をどうぞ、お嬢様」
「あ、ははは…。えーと、ありがとうございます?」
 何故か疑問系で感謝した後、萌はどうすればいいのかと引きつった笑みを浮かべた。この手を取りたくない。しかし躊躇していると、彼はさりげない仕草で萌を引き寄せた後、その腕に萌の手を絡ませた。
 これはさきほど手を握っていれば良かったのではないかと萌が思わず思ってしまうほどの密着感だった。
 今まで彼氏の一人も居たがなかったので、こんな風に異性にくっつくのは初めてなのだ。鼓動が激しいのは胸がときめいているのか、このやけに優しくしてくる長男の心の内が恐ろしいからなのか。せめてときめきで居て欲しいな、と乙女な萌の心の一部分が祈っていていた。

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