Wednesday, January 21, 2009

愛とはかくも難しきことかな22

 広いベッドで、優成さんはこちらを気遣ってか反対側の端の方に身を寄せている。抱きつかれるように寝られても困るけど、もうちょっと真ん中まで場所を取ってもいいのに。
 くいくい、と彼のTシャツの裾をひっぱるとびく、と彼が震えた。
「な、なんだ」
「もっと、こっち来ないと落ちてしまいませんか」
「いや、ここで大丈夫だ」
「でも……」
 言いかけて、ふと思いついたアイディアに、優成さん側に身を捩って寄せた。
「な、なんでこっちに来るんだ」
「掛け布団を優成さんが引っ張るから、私の側のがなくなってしまうんです」
「俺は布団はいらないから、お前が使え」
「優成さん!」
「こら、しっ」
 頑なに端に寄って寝ようとする彼につい大きな声を上げてしまうと、彼にぱっと口を塞がれた。どうも自室で寝ている矢田さんを気遣ってのことらしい。
 もがもがと塞がれた口を動かすと、肩肘をこちらの枕元について上から半分押しかかる姿勢になっているのに気づいたのか、彼はぱっと身を起こしてまた距離を取った。
「迷惑でしたか?」
「何が」
 聞くと目を逸らした。質問の意味は分かってるくせに。
「一緒に寝るのがお嫌でしたら、私ソファで寝ますから」
「ちょ、なんでそんな話になってるんだ」
 掛け布団を優成さんにかけると、身を起こした。ベッドから降りようとしていたこちらの腕を引き止めて、優成さんは慌てて言う。
「分かった、寝るから。真ん中で寝れば良いんだろ」
「真ん中はちょっと…」
「二分の一あるスペースを最大限生かして寝る」
 そう言うなり萌を布団の中に引き込んで寝かしつけると、自分はベッドの真ん中にほど近い場所で萌に背を向けて横向きになった。
 ばれないように彼が着ているTシャツの裾を小さく握って、おでこを寄せた。暖かくて大きくて、それから心音が小さく脈打っているのが聞こえた。
「優成さん」
「早く寝ろ」
 彼は萌にはそう言ったものの、寝辛いのか、何度も枕の位置を変えたり掛け布団を肩まで上げたり暑くなったのかまくったりしている。
「……優成さんは、私が御堂の家に居る事は反対ですか」
 背を向けたまま優成さんは、一瞬動きをとめた。
 それから、ぎこちない動作で背中に張り付いた彼女を振り返る。顔を背中にぴったりと寄せているせいで、その表情は伺えない。その様に大きくため息をつくと、身体を反転させて、萌の方を向いて頭を起こす。肘をついて彼女の顔を覗き込んだ。
 呼吸をすると人の香りがした。優成さんの、男の人の香りだ。もうほとんど覚えてはいないけれど、小さい時に父親に抱かれたときのことがうっすらと思い起こされる。少しだけ速い鼓動が、直に耳に響いてその時初めて彼が緊張していることに気がついた。

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