Monday, December 22, 2008

愛とはかくも難しきことかな13

 パーティに戻る克巳さんに別れを告げた後、ホテルの人が部屋まで案内してくれた。お金持ち専用のエントランスがあることに多少腰が引けながらも後についていく。エレベーターのボタンが少なかったし、直通用なんだろうか。
 ホテルに泊まった経験は中学の修学旅行くらいなんだけど、普通のホテルは部屋まで案内なんかしないんだろうな。でも荷物持ちとかの人はいるかな。そんなことを思っていたら、部屋に着いて納得した。
 一礼して去っていく案内の人にお礼を言って、ドアが閉まったのを確認してから、部屋の中をゆっくりと見渡した。
 入ってすぐにリビングルームみたいな広いスペース。その端には小さなバーカウンターがついている。開放されている両面開きのドアの向こうには大きなベッドが見える。バスルームは二つついていて、どちらも大きかった。
 御堂の家は相当な豪華さでもまだ家としての赴と生活感があったけど、今自分が立っている部屋はまるで映画の中で見るようなものだ。
 ふかふかの絨毯で足を挫きそうだったのでヒールを脱いで、そろり、とベッドルームに足を踏み入れた。奇麗に整えてあるベッドを指先でつつくと、ふかふかで寝心地が良さそうだった。
 数歩後ろに下がってから、思いっきりジャンプしてベッドにダイブすると、ぼいんぼいんとスプリングが軽く軋みながら弾む萌の身体を受け止めてくれる。
「うーん、まさに乙女の夢………」
 今いる自分の世界はまったく夢のような世界だ。それこそ冗談のような。
 しかし夢はいつか覚める。
 自分は今脆い基盤の上に立っている。いつ崩れたっておかしくない。そもそも御堂の父といくら血が繋がっていようとも、認知すらされていない彼には萌を養う義務も権利もない。彼は厚意で萌を養っているし、萌はそれに甘えている立場だ。どちらかが、止めにしようと言えば終わる関係だ。義務教育もすでに終わっているし、基本的に独り立ちしようと思えば出来る年齢ではある。
「おばあちゃん、メグはどうしたらいいのかな……?」
 返事がないのは分かっていたが、口にしてみる。
 ベッドに寝転んだまま目を閉じた。今このまま眠ってしまえば、まだ祖母が夢に出てきてくれるかもしれない。そんなことを思いながら、いつのまにか吸い込まれるように眠りの世界に導かれていた。

 暖かいゆりかごに包まれているようだと思った。とても心地よくて、いつまでもそこに居たいと思えるような。
 しかしその平穏は何かが這い回る感触に妨げられた。
 くすぐったいような、それでいてどこか気持ちの良い感覚が首筋をくすぐる。
「んっ……」
 身を捩ると、その感触は吸い付くように離れなかった。
 ちく、と痛みが走って手で払いのけようとすると、ふわふわの毛の感触がした。
 何だろう。犬か何かが居るんだろうか。
 自分はどこにいるんだったっけ。
 御堂の家。
 じゃなくて、今は確かホテルの部屋。
 ホテルの部屋に犬がいるわけない。
 そこまで考えたところで瞬時に頭が覚醒した。
「やぁっ」
 目を開けると、自分の胸元に誰かの手が置かれている。いや、置かれているというよりは誰かの手に胸が包まれている。

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