Friday, May 1, 2009

愛とはかくも難しきことかな 閑話3

 別に彼女が婚約者候補だとは思わないけれど、ただの一般人を父が引き取るとも思えずに、その夜遅く父の書斎に行った。
 父の部屋と自分の部屋は増築した離れにある。といっても、自分の部屋には最低限の家具しかおいていない。さすがに20代も後半に差し掛かると自分のマンションも持っている。ただ実家にいるとトメさんのご飯が美味しいし、一人で広いマンションに居るよりも楽なのだ。勿論大学時代は一人暮らしを満喫したこともあったが、最近は逆に家の方が居心地が良いのでよく寝泊まりに使っているくらいだ。
「父さん、ちょっと良いですか?」
「ん?どうしたんだ」
 何かの手紙を見つめていた父は、さりげなくそれをこちらの目から隠すように近くのフォルダに閉まった。
「あの子、一体どういうことなのか聞いても?突然引き取ってきた上に、本当の妹扱いしろなんて納得がいかないんですけど」
「まぁ、そうだよな」
 隠された手紙が気になりつつも、とりあえず聞きたかったことを聞いた。
 短期間だったがとりあえず書庫で家系図を調べてみたが、本家筋は勿論のこと遠縁にすら渡辺という名字はなかった。会社の社員名簿で過去から現在のデータを調べてみても、萌ちゃんに関係のありそうなそれらしい人間はいない。
 これで答えてもらえなければ、私立探偵でも雇おうかと思っていたのだが——だって気になるじゃないか——予想に反して父はあっさりと降参した。
「これ、見てくれないか」
「?なんですか」
 さきほど父が何かの手紙を隠したフォルダを手渡され、中を開くと思わぬ書類が収められていた。
「DNA鑑定書?これ、父さんが父親になってますけど」
「うん。偽物なんだ、それ」
「はぁ?!」
 DNA鑑定を偽造するのは犯罪ではないか。一体何を考えているのだ。これが世間にバレたら御堂のネームバリューが一瞬で塵になってしまう。警察沙汰だ。
「父さん、一体何を血迷って」
「うーん、どこから説明したら良いものやら」
「最初から全部説明して下さい。でないと納得できません」
「それがなかなか難しいことなんだが…。仕方ないな、お前は長男だし、知っておく義務はあるかもしれない。…本当は僕の代で忘れ去られる筈の、御堂の過去の汚点なんだが…」

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