Thursday, May 28, 2009

しのやみ よわのつき06

 マナは基本的に7時半過ぎに仕事場を出て8時前に家につく。外資系証券銀行のアナリストは朝が早く帰宅も遅いが、給料は文句なく良いし福利厚生などの手当も良い。
 レイと過ごす時間は多少減るけれど、週末の残業は少ないので休日しっかり時間を取れる分普通の仕事よりも良いかとも思ったりしている。

「ただいまー」
 都心にほど近いデザイナーズマンションの一室にある我が家に辿り着くと、すぐにレイが玄関に顔を出した。
「おかえり、ご飯できてるよ」
「ありがとー。いつもゴメンね」
「好きでやってるんだから気にしないで」
 ちゅ、とマナの頭に唇を寄せると、マナはぼっと顔を赤くさせた。
「もうっレイちゃん、ここは日本なんだからそういうスキンシップは」
「はいはい、分かってますよ〜。それよりご飯にする?それともお風呂?」
 いつも通りレイを諌めようとするマナを軽く流して、冗談めかしてそう言う。可愛らしく見えるように上目遣いもつけて彼女を見つめると、マナは額を押さえてはぁーと大きくため息をついた。
「レイちゃんの将来が心配だわ。すっごいタラシになりそう」
「はははっ、俺は一途だから好きな子だけにしかこういうことはしないよ」
「本当かしら」
 踵の低いパンプスを脱ぎながらマナは玄関から上がる。
 美味しそうな晩ご飯の香りにお腹の虫を鳴らしながらリビングに入って、通勤鞄をソファに置いた。それから手を洗うために洗面所に行く。
 レイはその間にダイニングで晩ご飯の用意をする。
「マナ、今週末の予定は?」
 ついでにコンタクトも外したのか、メガネ姿になって戻ってきたマナにレイは訪ねた。
「ん、いつも通り家の片付けかしら。あぁ、そうそう」
 思い出したようにソファの上の通勤鞄に手を入れる。
 中から出てきたのは青いよく見かけるレンタルビデオ屋の袋だった。
 ダイニングのセットをし終えたレイは興味を引かれたようでソファまでDVDを見にやってきた。
「何?映画のDVD?」
「ううん、ドラマなの。久しぶりにどうかと思って」
「ふーん、数年前の?名前は聞いたことあるけど」
 何年か前に大ヒットしたそれは何回か再放送されていて、レイも名前だけは聞いたことがあった。ただテレビの放送時間が合わなくて、わざわざDVDを借りてまで見ようとは思わなかったので今まで見たことはなかった。
「ご飯の後で良かったら一緒に見よう」
「うん。あーお腹空いたよぅ。きゃーハンバーグだぁー美味しそう」
 レイが用意する食事の大半に大げさに美味しそうと騒ぎ立てるマナだったが、レイもまんざらではなくゆるみそうになる顔を誤摩化しながら席についた。

 食後にマナは紅茶を入れ、リビングのソファにレイと並んで座ってDVDを観た。内容は恋愛物で、一途に男のことを想う高校生の純愛を描いている物だった。
「うわ、この俳優、あの吉嶺聡?若いなー」
「あたしと同い年だからね、この頃18歳だったかしら?」
「このドラマで人気出たんだろ」
「そうね、一躍時の人になったわ」
 そう言ってマナは懐かしそうに画面を眺める。
 ドラマのストーリーの内容よりも、ドラマその物を懐かしがっている感じだ。それにレイは違和感を抱いてふと尋ねる。
「マナはこの頃日本に居たの?」
「いいえ、でもたびたび帰ってきていたから」
「ふぅん?」

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