体調を崩している間は双子は静かで居てくれたようで、保健室から家に帰ってきた後はしばらく顔を見ることもなかった。
代わりに克巳さんがお見舞いと銘打ってよく顔を出す以外は、わりと平和だったと言えるだろうか。
優成さんとは少し仲良くなった。どうやら厳めしい仮面を外すと、兄弟の中で一番付き合い易いのが彼なのかもしれない。
「それで、パーティにはどのドレスを着ていくつもりなんだ?」
熱が37度と微熱の域まで下がった頃、お盆に果物を乗せてやってきた優成さんが聞いてきた。
「パーティ?」
「言わなかったか?父の会社の創立記念だと」
「えっ、そうなんですか?」
二人分乗せてあるところを見ると、どうやら一緒に食べるつもりで持ってきたらしく、可愛らしい爪楊枝が二つ、奇麗に切り分けられたリンゴの上に刺さっている。その一つを咀嚼しながら、驚きに声をあげた。
「そのためにドレスを買いにいく予定だったんだろう」
そういうことだったのか。
まさか自分がパーティに出るなんてこれっぽっちも思っていなかったのだけど。そもそも双子のどちらかに「本当に出られると思ってるのか」と言われたので、出られるわけがないとてっきり思っていたのだけれど。
あぁ、しかし。出るとなればまた双子に嫌みを言われそう。
「優成さん、そのパーティ出なきゃだめですか?」
「何故?」
「何故って、だって私は未だこの家の人間ではないですし」
自分はまだ正式には養子にはなっていない。お父様、ならぬ自称父親—私はまだ彼が父親とは認めていない—に再三早く認めて欲しいと言われているけれど、手続きにはガンとして首を縦には振らないようにしている。
後見人になってくれるのは嬉しいけれど、やはり自分は思い出にある両親の子供としていたいのだ。
「そんなこと気にするな。あの父のことだから、何とでも言って君を皆に紹介するだろう」
「いえ、でも、私庶民ですし」
「ただ食べ飲みが無料の立食会だと思えば良い。挨拶周りは父と克巳兄さんがするだろ。弟達は毎年友達とホテルの部屋に早々に引き上げるし」
その立食会なんて言うものに参加したことがないというのを解ってくれないだろうか。大体、知り合いのいないパーティなんて出てどうするというんだろう。双子にチクチク言われて、胃の痛みを堪えながら立ったままご飯を食べるのなんて、全然楽しそうには思えない。
「心細いのだったら俺の傍に居ればいい」
「え?」
「どうせ俺だってそんなに知り合いが居るわけじゃない」
と、そう言ってくれる義兄もどきが居たからこそ行く気になったのだけれど。
嘘つき!
「優成さん、この間のお茶会は……」
「優成さん、お聞きになりました……」
「優成さん」「優成さん」「優成さん……」
次から次へと奇麗な女性が彼に声をかけていく様を、萌はつまらない思いで眺めていた。俗にいう壁の花という立場になりながら。
壁際には椅子があって助かった。慣れないヒールで少し足先が痛かったのだ。
着慣れないドレスも胸元が開きすぎていて、居心地が悪い。自信過剰かとも思えるが、すれ違う異性が皆自分の胸元を眺めて行っている気がするからだ。それどころか豊満なバストを揺すりながら歩くお姉様達には鼻で笑われている気がする。
そもそもこのドレスを着ることになったときからツイていなかった。
Tuesday, December 2, 2008
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